- 差異力 知らないことは武器になる
- 総合法令出版
- 本
「知らないということが武器になる!?」
最近、知識こそが教養だと喧伝される中、この一節はとても興味を引いた。
”知らない”という状態が、どれほど効果的か、そしてこの本のタイトルにもある「差異」がどんな機能を果たすのか……そして、現代に生きる私たちが培うべき力、スキルを考えるのが本書の目的。
筆者は、タイで生まれ、アメリカのビジネススクールを卒業後コカ・コーラやデル、レノボ、アディダス、ソニーなど、当時は経営が傾いていた多くの企業を。再興させ、大企業へと成長させた人物である。
目次
1章 予測不能の時代
2章 若者よ、よそ者であれ
3章 よそ者が持つ差異力
4章 分岐点に立ったとき、生き方が見える
5章 自己覚醒、日本覚醒、そしてアジアへの貢献
予測不能な時代、それを「VUCAの時代」と呼ぶ
三洋電機、三菱、シャープ、東芝などの大企業の衰退を誰が予想できただろうか?
山一証券の倒産も、日本の船舶と呼ばれていた造船業の没落も、予測できた人はいただろうか?
「あたり前」「安泰だ」などと言われている事柄も、企業も産業も、わずか数年で移り行く時代、それがVUCAの時代だ。これはV=Volatility(変動)、U=Uncertainty(不確実性)、C=complexity(複雑)、A=Anbiguity(曖昧)の頭文字だ。
この予測不能な時代に対応できないビジネスパーソンは滅びゆく。
今の自分の立ち位置、状況が安泰と思ってはいけない。ある日突然そのあたり前が無くなるのだから。
差別化ではなく、”差異化”せよ
こんな時代において大切なこと、それが他と違うこと=差異だ
よそ者の感覚、これが本書のキーワードである
長い間おなじ業界、環境にいると、慣れや常識に縛られていく。
「~はこういうものだ」「~はそうあってはならない」「~なはずがない」
こうやってステレオタイプなものの見方ばかりに囚われ、せっかくの成長のタネを腐らせていく。
そこで、
「そんなことは誰が決めたんだ?」とそこで立ち止まって考える。
世の中には別にそれである必要はないのではないか?と思うようなものはたくさんある。
「こうあっても面白いんじゃないか?」「これとこれを組み合わせたら便利じゃないか?」
この視点がよそ者の視点である。
筆者が身を置く白物家電産業も、洗濯機にしても冷蔵庫のしても機能がさほど変わらないものが目立ち、各メーカーは「自分たちの商品がいかに他者と異なるか」ばかりを強調している。しかし、消費者からすれば別にどこのメーカーのでも良く、結局ポイント何倍!や店頭での値引きによって購入するケースが多い。そこで筆者は、自分たちが戦うフィールドを変えればいいだけじゃないか」と考えた。白物家電の常識を破る発想、それが世界最小サイズの洗濯機、ふたが透明で中が見える洗濯機、持ち運べる冷蔵庫などだ。ここに競合するメーカーは存在しない。
戦うフィールドを変える、つまり戦わないこと。最上の戦略とは「戦うことを略する」ことなのだ。
会社を探すな、職を選べ
先にも書いたように、いまトップと言われる企業、産業はいつ衰退するか分からない。同じ企業が10年以上、好調だということは珍しくなってきている。VUCAの時代、どの企業が衰退するか、それとも成長するか、分からない。だからこそ会社を選ぶのでは無く職を選ぶべきなのだ。
なりたい自分を抽象化せよ
多くの大学生は、就職活動において自己分析を求められる。しかし、社会経験も浅い学生が自己分析なんてしても、進む方向を見誤ったり、可能性を削ぐだけだと筆者は言う。
そこで、考えるべきは「向いている職業」ではなく「なりたい職業」「やりたい仕事」だ。
また、なりたい仕事は具体化しないほうがいいと筆者は言う。好きな仕事=自分に向いている仕事ではないのだから、なりたい仕事で自分がどんな役割を果たしたいのか、どんな仕事環境にしたいのかを考えて、自分の将来像をイメージするに留めるべきだと筆者は言う。
石の上にも3年、だが3年以上いる必要があるかを考える
いまの仕事は10年先にも存在するか、いまの自分の価値を維持できるかを考える。
また、ベテランになるのは危険だという。
従来、ベテランはその道のプロというイメージが強いが、裏を返せば”それしかできない”ということ。
ベテランは、その仕事に価値があるという前提があるから存在価値を持つ。しかしその仕事が無くなればベテランの価値もなくなる。職人と呼ばれる存在はその表裏一体の位置にある。
だからこそ、時代に合わせて持ち帰られる武器を、スキルを身につけるべきなのだ。
そこで、3年ごとに違う仕事にチャレンジしていく。
これは何も転職を意味するのではない。仕事の幅を広げろということ。
具体的には、副業・兼業をしろということ
働き方改革の法案の中に、「副業・兼業の容認」がある。
そこで、藤田晋氏が提唱した「週末起業」を積極的にすべきだと筆者は言う。
働き方改革で労働以外の時間は少なからず増えるだろう。その余った時間を副業・兼業に有効活用すべきなのだ。
まずは自分の趣味や好きを副業・兼業にすること。
「自分探し」「自己分析」にとらわれるな
先程、就職活動のためだけの自己分析の無意味さを述べたが、それは自己分析は過去しか写さないからだ。
確かに自己分析は、自分の持つスキルの市場価値を考えたり、過去の経験から学ぶことは大切だ。でもそれは「自己評価」と言っていい。一方、自分探しは現状の不満を環境のせいにしたり、自分を正当化することにつながる。自分を探さずに自分と向き合い、見つめ直すという行為、自己評価を行うべきだと筆者は言う。
人生の分岐点は、いつだって目の前にある
人生の分岐点、自分を含め多くの人は進学、就職、結婚、出産などをイメージするのではないか?
しかし筆者によると分岐点はいつも目の前にあるという。
その分岐点というのが、現状に違和感を感じたとき。
目の前の小さな疑問や違和感、不満が変革の火種となり得る。
一番怖いのが、不満を抱えたまま我慢することだ。そして我慢に慣れてしまうことだ・
俗にいう「茹でガエル症候群」だ。
湯の温度が段々上がっていっても、中のカエルは逃げずにいて、そのまま茹で上がってしまう話だ。この場合、生存の分岐点を忘れているのだ。
コンビニの外国人店員が、グローバル労働者のレベルを表す縮図だと思え
コンビニや売店、飲食店で働く彼らを目にする機会は増えてきている。しかし、私たちはその光景をなんとなく、人ごとのように眺めているのではないか。
「せいぜいコンビニのアルバイトだ」なんて思ってはいけない。
異国の地で、異国の言語で、マルチタスクであるコンビニの店員をこなしているのだ。日本人より遥かにエリートではないか。彼らの多くは母国語と英語、さらに日本語も話せる。その時点で日本人より相当有利だ。
この傾向は加速度的にこれから進行していく。そしてアジア市場が日本を上回る時代が到来する。
そんな中でAIも発達してさらに日本人の雇用を奪っていく。
日本の高品質なものづくりを支えてきた職人の仕事もAIに取って代わられる時代はすぐそこだ。そこでは「高度な加工は人間じゃないと無理だ」という考えは通用しない。
このように、これからはアジアの人材だけでなくAIも日本人ビジネスパーソンの競争相手になる時代。
そこでカギとなるのが
- 「選択肢を多く持つこと」=キャリアを増やす、仕事に幅を持たせる、~しかできないをなくす
「シミュレーションを徹底すること」=人生の分岐点を意識する
「コミュニケーション能力を磨くこと」=最低限の英語、伝えようとする熱意