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本のご紹介、読書日記

AI時代の新・ベーシックインカム論  井上智洋

AI時代の新・ベーシックインカム論 (光文社新書)
AI時代の新・ベーシックインカム論 (光文社新書)
光文社



「ベーシックインカム」


読者の多くがこの言葉を一度は目にしたことがあるだろう。


「全国民に一律のお金が支給される制度」


一言でいえばこんな制度だ。


しかしベーシックインカムを誤解している人は多いと筆者は言う。


”働かなくてもお金がもらえる制度” 
”ますます働かない者を産出してしまう”
”労働意欲を根こそぎ奪う”


こんなような誤解・反論である。


しかしこのような考え方は物事を白と黒の2色に分けて捉えているからこそ生まれるもので、そうではなくグラデーションとして捉えるべきなのだ。


「ベーシックインカムによって労働意欲は低下するか?」
という質問にYESかNOで答えるのではなく、「給付額によって変わる」と答えるべきなのだ。


そして、ベーシックインカムのある社会では、働く人はこれまで通り所得を得、プラスαでベーシックインカムの恩恵を授かるに過ぎない


従ってベーシックインカムは生存に必要な最低限のお金を支給して国民の最低限の生活を保障するに過ぎない


ベーシックインカムは「労働」と「生存」を切り離す制度であって、「労働」と「所得」を切り離すものではない

ということだ。


これに対し生活保護は似たような制度であるが、本来その恩恵を享受すべき人が看過されている。


その割合は、全生活保護受給可能者の8割に及ぶ。


つまり、2割の人しか生活保護によって救済を得られていないのが現状なのだ。


制度の対象者という区分で生活保護とベーシックインカムを比較すると、


お金の動き


生活保護……「富」から「貧」へ
ベーシックインカム……「全員」から「全員」へ 


ということになる。


ベーシックインカムの真のコストとは?


ベーシックインカムの「お金」の面でのコストは、「増税額」-「支給額」である。この差引額を全国民で平均するとゼロになる。


要するに、国民全体にとって「お金」の面ではベーシックインカムは損でも得でも無いのだ


というのも、お金は使ってもなくならないためお金が政府と国民の間を行き来している以上、国全体の損失にはならず、実質的なコストは生じない。


従って、実質的なコストとはお金を使うことではなく労力を費やすことなのだ。


ベーシックインカムは受給者を選別しないから、対象者を絞り込み、様々な書類を審査するなどの事務的な手続きの労力=コストが限りなく低い



”ベーシックインカムは損でも得でもないのなら、導入する必要がないのでは?”

これは多くの人が思いつくであろう疑問であり、自分も抱いた疑問である


結論を言うと、ベーシックインカムはプラスである


ベーシックインカムによって消費行動がそれまで乏しかった層が給付されたお金を使うようになり、消費税による国の歳入が増え、国全体の収支がプラスに近づくからだ。



では、本書のタイトルでもある「AI時代の」という観点からベーシックインカムの必要性を考える


①AIなどのITの発展・普及によって事務労働はロボットに取って代わられる可能性が大きくなっていく。


②すると、事務労働者をはじめとする中間所得層は淘汰され、肉体労働か頭脳労働へのシフトを迫られる。


③頭脳労働は雇用数が絶対的に肉体労働よりも少ないため、多くの人は肉体労働へのシフトを余儀なくされる。


④肉体労働はおそらく、多くが人工知能を搭載したロボットに取って代わられ、肉体労働者は貧困にあえぐ


⑤頭脳労働者はますますAIやロボットなどの、人間を介さない資本を導入することで利益を貪っていく


このような循環が生まれてしまう。


だからこそ、「働かざる=働けざる者飢うほかなし」のこれからの時代、ベーシックインカムのの導入の必要性は大きいのだ。