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本のご紹介、読書日記

『里山資本主義』‐日本経済は「安心の原理」で動く 藻谷浩介

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)
里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)
KADOKAWA/角川書店
2013-07-10



マネー資本主義


我々は、いつのまにかこの経済システムに組み込まれ、「やれ生産」「やれ消費」と鞭を打たれ続けてきた。この経済システムはアメリカがこれまで先導してきた。しかし、記憶に新しい2008年のリーマンショック。


世界の天才数学者たちがウォール街に集まり、複雑な数式を駆使して金融工学によって”まやかしの経済”を支えていた。ローンが組まれたら債権としてウォール街に持っていかれ、ローン債権は組み合わされて「数学的加工」がなされて金融商品となる。それを投資家たちが次々と購入する。一体どこからお金が出てくるのか?誰かが損しているはずなのでは?そう思うのも当然だ。このサイクルは虚構に過ぎないのだから。


しかしそれは所詮”まやかし”。いつか終わりが来る。リーマンブラザーズの倒産、GMの経営破綻。
これを皮切りに一気に経済の「逆回転」が起こり始めた。死にそうになったウォール街やGMの救済のためヨーロッパをはじめ多くの国が財政出動をして借金を肩代りした


その結果、何が起きたか。


ドルの借金をユーロで肩代りしたヨーロッパ諸国がマネーという猛獣の餌食となった。
ユーロ危機」である。ギリシャの経済破綻が飛び火してイタリアやスペインをも巻き込むよーヨーロッパの大混乱に陥ったのは周知だろう。


さらに2011年の東日本大震災災害時にいかにマネーが役に立たないか遠い国で作られたエネルギーに頼ることがいかに不安なことか
生きることのすべてが、自分の手の届かない大きなシステムの中に完全に組み込まれる事のリスクが一気に顕在化した


そんな、マネーに頼りすぎてしまった我々の経済をもう一度見直そう。本書はそれを「里山」の視点から図る。



目次
①世界経済の最先端、中国山地
②21世紀先進国はオーストリア
③グローバル経済からの奴隷解放
④”無縁社会”の克服
⑤「マッチョな20世紀」から「しなやかな21世紀」へ
⑥「里山資本主義」で不安・不満・不信に訣別を




第一章


・「木質バイオマス発電」


岡山県真庭市。この地での製材過程で出る木くずは年間4万トン。これを炉に流し込んで発電。ここで作られた電気が周辺の工場に供給されることで電力会社から買う電気はゼロ。しかも夜間は電気をそれほど使わないので余る。それを売電する。さらに、これまで産業廃棄物として扱っていた木くずの処理費用が浮く。これらすべての収益は合計4億円。発電所の建設費用は10億円だったから3年でプラスになる。
ここで大事なのは、農林水産業の再生策は、しばしば効率化、大量生産、大規模化などの視点で語られがちだが、発想を逆転させて「マイナスをプラスに変える」ことで立て直しを図ったこと。
さらに革命的なのは、発電しきれず余った木くずを円筒状に固めて木質ペレットに再生させてこと。これは灯油と同じように使え、灯油とほぼ同じコストで、ほぼ同じ熱量を得られる。石油を中心に据えてきた20世紀のエネルギーにとって変わる可能性を秘めた、21世紀の燃料なのだ。



・過疎を逆手に取る


「高齢者」ではなく「光齢者
人生経験豊富で輝ける年齢に達した人たち。生きる名人。


「省エネ」ではなく「笑エネ
省エネというとどうしても「我慢」というイメージが付きまとう。これでは長続きしない。楽しくエネルギーを使おう。みんなで笑いながらエコストーブなどでエネルギーを使えば、体も心も温まる。


里山暮らしも人たちは「志民
市民ではなく志民。行政や政治任せにするのではなく、志を持って地域のために動ける人。笑顔や汗、知恵が里山を活性化させる。



都市ではどうしても電気使い放題になってしまうが、田舎ではある程度、自分たちで電気を賄える。エネルギーを確保できる。経済は、経営者が儲けても、消費してくれる国民が垢出ないと、その経済は保証できない。




第二章


モーツァルトやシューベルトを生んだ音楽の国。はたまたザッハトルテに代表されるチョコレートの国。それだけではない、経済優良国オーストリア失業率はEU最低GDPは世界11位(日本は17位)
ではなぜ人口1,000万人にも満たない小国オーストリアが、これほど安定しているのか?
その秘密こそ、里山資本主義なのだ。
オーストリアは、国を挙げて木の徹底活用による経済自立を図っている。前章の真庭市のように。
国土は北海道とほぼ同じだが、丸太の生産量は日本より多い


さて、そんな林業先進国のオーストリア。日本のように、森林伐採による環境破壊は起きていないのだろうか?
その対策が「森林マイスター」だ。
彼らは、500ヘクタール以下の森林を所有する、要するに会社や家族が所有する場合の森林管理者だ。
彼らは山林全体の資源量の管理、1年間に伐採してよい木材の量の決定、伐採区域の決定、そして販売先の確保など、仕事は多岐にわたる。親から子へ山を受け継いだ時に、その子供たちが森林マイスターの資格を取る。
しかし日本では、林業は「きつい」「汚い」「危険」の3Kのイメージがある。オーストリアでも以前までそうだったが、現在は改善された。その要因は3つある。
1つ目は林業従事者の作業環境の安全化
2つ目は、バイオマス利用の爆発的な発展により、森林に新たな経済的な付加価値がついたことで、林業がお金になること。すなわち、森林所有者が森林に関わるインセンティブが大きくなったこと。
3つ目は、林業が高度で専門的な知識が求められる、カッコいい仕事になったこと。生態系やらテクノロジーやら経済やら、多くの専門的な知識を要するため、高度な専門性に対する金銭的な見返りも大きくなった。


森林の持続可能性は、森林所有者のみならず、製材業、製紙業など、林業の発展にも寄与する。




第三章


日本の歴史を振り返ると、飛鳥時代の律令制度、明治の文明開化、昭和の軍国主義、終戦後のマルクス主義など、当時のトレンドのようなものが一時高まるという、外来の極論への熱狂は、風前の灯火となり、日本流に変容していく。
律令の枠外から武士が台頭したり、奈良の大仏から鎌倉仏教が勃興したなど。
これらは、輸入された文化はいずれ日本風へと揺れ戻されるということ。
現在でいえば、アメリカから輸入されたマネタリズムから、コト消費へ


それらに似た話は、「ニューノーマル」という言葉が物語る。
東日本大震災の後、自分のための消費(ブランド物のなど)ではなく、つながり消費
新たなものを手に入れたいという所有価値から、”今あるものをどう使うか”という使用価値へ。




まとめ


「日本は衰退傾向にある」という悲観的な主張を目にすることは多い。「高齢化がこのまま進めば、日本は生産年齢人口が減少し、経済成長がストップする」というのだ。
しかし筆者によると、それは誤り。
高齢化が進むことによって、金銭換算できない価値を生み出す里山資本主義はさらなる推進力を得て発展する。


人口減少は、裏を返せば一人一人の価値が相対的に高まるということ。
一人一人が金銭換算できる、あるいは金銭換算できない価値を生み出すことで、金銭換算できる、できない対価を受け取れる。


里山は、その社会の実現を可能にする。