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本のご紹介、読書日記

エッセンシャル思考   グレッグ・マキューン



エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする
エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする
かんき出版





エッセンシャル思考は、より多くの仕事をこなすためのものではなく、やり方を変えるためのものである


エッセンシャル思考


「まーたこういうカタカナ用語に弱い自分はこういう身も蓋もない自己啓発書に吸い寄せられてしまうなぁ」


本書を手に取った時、素直にそう思った。


新聞や広告でこういった類の自己啓発本を目にすることは多いと思います。


ありきたりで抽象的な美辞麗句を書き連ね、読者の危機感を煽る本だってあります。


この本もきっとそんなような本なのかなって思っていました。


だけどそのマイナスな期待は見事にひっくり返されました。


本書のサブタイトル、そして上の引用文からも分かりますように、エッセンシャル思考とは、「より少なく、より良く」を実践するための考え方をまとめたものです。





エッセンシャル思考を図で完結にまとめると、以下のようになります。



「なんでもやる」ではなく、本当に大切な本質的なことだけに全エネルギーを注ぐ


これが、エッセンシャル思考の本質的な部分です。



その「エッセンシャル思考」を章に分けてテーマごとに掘り下げていきます。



エッセンシャル思考とは何か



エッセンシャル思考と非エッセンシャル思考


人はなぜ、方向性を見失うのか?


「○○を始めよう!」「○○になるために××を忘れずにやろう!」


そうやって決心したはずなのに、気づけば三日坊主になってしまった経験は誰しもあると思います。


ではなぜ、そのように意思が続かなかったり、迷いや周囲の目線によって流されてしまうのでしょうか?


 理由① 選択肢が多すぎる
ここ10年ほどで、私たちの選択肢は急激に増えました。そのせいで大事なものが見えなくなってしまったのです。


 理由② 欲張りの時代
テレビCMはあらゆるものを手に入れろと叫び、求人広告は「何でもできる人求む」とある。「全部手に入れよう、全部やろう」という考えが浸透しつつあるのです。



こうした考え方の弊害として、周りに流されて自分に正直に生きられなくなることが挙げられます。



自分に正直に生きるというは、単にわがままになることではありません。不要なことを的確に見定め、排除していくことです。
つまり、やることを減らし、人生をシンプルにして本当に重要なことだけに集中するということでなのです。


本当に重要なことを見極めるには、「自分は今何をすべきか?」「自分は何がしたいのか?」「自分は何が好きなのか?」を明確にする必要があります



そうすると、雑用を切り捨てられるだけでなく、本当に自分が乗るべき誘いを判断できるようにもなります。



選択   —選ぶ力を取り戻す



われわれを人間にするのは選択する能力である。  — マデレイン・レングル(作家)


みなさんは、「学習性無力感」という心理的バイアスをg存知でしょうか?


どのようなものかを説する前に、「学習性無力感」についての面白い実験をご紹介します。



まず、犬を3つのグループに分けます。
1.リードで繋がれ、逃げられない状態で電気ショックを与えられる
2.1と同じ状態だが、パネルを踏むと電気ショックを止められる
3.リードで繋がれただけで、電気ショックは与えられない


3つのグループを、低い障壁で電気ショックゾーンと安全ゾーンで左右に分けられた部屋に連れていく。


面白いことに、2と3のグループは、障壁を飛び越えて安全ゾーンに移ったのですが、1のグループは動こうともしなかった。電気ショックから逃れる方法を探そうともしなかったのです。


小部屋に連れていかれる前になすすべもなく電気ショックを与えられていた1のグループの犬たちは、そこから逃れるという選択肢があることを忘れていた。それまでの経験上、なすすべもないという無力感を植え付けられていたのです。


この犬たちと同様に、人間にも学習性無力感は存在します。
算数の初歩でつまずき、どうやっても解けない問題に苦しんだ子供は算数に対する努力を放棄する。何をしても無駄だと思い込んでしまいます。


他にも、すべてを引き受け、すべて全力で取り組もうとするビジネスマンがいます。
一見、無力感とは縁がなさそうだが、自分から大事な仕事を選ぶというアクションをせず、選択肢を吟味する努力をしない点で無力感に陥っているのです。


エッセンシャル思考

選ぶ力を無駄にしない

自分で選び取る




ノイズ   —大多数のものは無価値である



万物の大半はほとんど価値がなく、ほとんど成果を生まない。
少数のものだけが非常に役立ち、大きな影響力を持つ。    —リチャード・コッチ


時間と成果の関係について


ある種の努力は、ほかの努力よりも効果が大きい


がむしゃらに目の前の仕事に没頭するのではなく、「自分の仕事で、もっとも価値のある成果は何か?」と考え、自分の会社、属する団体にもっとも貢献できることをすれば、少ない時間でより良い成果をもたらせます。


重要な少数は、瑣末な多数に勝る

80対20の法則(パレートの法則)」をご存じでしょうか?
経済学者のヴィルフレド・パレートが提唱した法則で、成果の80%は20%の努力に起因するという説です。


例えば、世界一の投資家ウォーレン・バフェットという方をご存知でしょうか?
彼は、少数の投資先だけに融資し、一度買ったら長い間保有し続けます。そして、彼の資産の9割は、たった10種類の投資によるもの、という驚くべき方です。


彼は、本質的な少数のものだけ(少数の見込みのある株)を選び取り、その他多くのチャンス(多数の不安定な株)にノーと言ったのだ。



エッセンシャル思考

・大多数の物事が不要だと考える

・少数の決定的に大事なものだけを選び取る



トレードオフ   —何かを選ぶことは、何かを捨てること


戦略には、選択とトレードオフがつきものだ。
独自性を意図的に選び取るのである。    —マイケル・ポーター


何かを得るために何かを捨てる、というのがトレードオフを簡潔に言ったものです。


トレードオフが大切なのは分かりますが、私たちがなかなか実行に移せないのは、トレードオフが起こるのは、どちらも捨てがたい選択肢であるとき、であるからです。
高い給料か、長い休暇か。急ぎのメールに返信するか、大事な会議に出席するか。
どちらにもYESと答えたくなる。


そして、
非エッセンシャル思考の人は、「どうすれば両方できるか?」と考え、
エッセンシャル思考の人は、「どれを引き受けるか?」と考えます。


また、トレードオフは痛みを伴いますが、絶好のチャンスでもあります。


選択肢を比較検討する中で、自分の本当の望みが分かるからです。



エッセンシャル思考

・何を取り、何を捨てるか?

・何に全力を注ぐか?



見極める技術


多数の瑣末なものから、少数の重要なことを見分ける


選抜   —もっとも厳しい基準で決める


内的なプロセスは、外的な基準を必要としている。
                 —ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(哲学者)


90点ルール


何かを選ばなきゃいけない状況で、様々な基準を設け、それに9割満たすものだけ選び取る。7割や8割満たしていてもきっぱりと切り捨てる。


この、90点ルールは、トレードオフを強く意識させる方法です。というのも、完璧な選択肢が現れるまで大多数の選択肢を容赦なく却下するからです。


非エッセンシャル思考の人は、「上司に言われたからやる」「誰かに頼まれたからやる」あるいは「みんながやっているからやる」という、消極的な基準でものごとを選んでいる、と言います。(自分も思い当たる節が……)



そこで、チャンスや誘いを正しく選別するには

  1. そのチャンスを書きだす
  2. 「これだけは満たしてほしい」という最低限の基準を3つほど書き出す
  3. 「こうだったら最高だ」という理想の基準を3つほど書き出す


このすべてを満たしているものだけ承諾する、というのが必要です。


つまり、絶対にイエスだと言い切れないなら、それはすなわちノーである、ということです。


エッセンシャル思考

・上位10%のものごとにだけYESと言う

・明確で厳しく、正しい基準を採用する

・「自分の求めている、やりたいことだから」やる



捨てる技術


目標   —最終形を明確にする


目的が明確でないと、人は動かないし、動かすこともできない。
計画でないとき、人はどうでもいいことに時間とエネルギーを浪費する。


では、会社や個人の目標を明確にするにはどうしたらいいのでしょうか?


その1つのやり方が「本質目標」です。

上の図から分かるように、
ビジョンやミッションなどは、魅力的だが抽象的
四半期目標や短期的な達成要件は、具体的だが平凡


本質目標は、具体的で、かつ魅力的大きな意味があり測定可能なもの。


本質目標を正しく決めれば、その後の無数の決断が不要になる



エッセンシャル思考

・具体的かつ魅力的な戦略

・意味があり、心に残る本質目標

・ひとつの決断によって、その後のあらゆる決断を不要にする



拒否   —断固として、上手に断る


勇気とは、プレッシャーに負けない品格のことだ  —アーネスト・ヘミングウェイ


人は、周囲の期待やプレッシャーに負けて、不本意なYESを言ってしまう。よく考えもせず、目の前の相手を喜ばせたいと仕事を引き受け、後に深く後悔する


エッセンシャル思考の人は、そのような気分の良さは長続きしないことを分かっており、本当に重要なことをやるために、本質的でない依頼は断るのです。



「それが出来たら苦労しない!」という声が聞こえてきそうです(笑)。



では、どうすれば上手に断れるのでしょうか?


 
判断を人間関係から切り離す


頼みを断ることが、相手を拒絶することだと感じてしまわずに、相手との関係性から切り離して考える。



依頼や仕事を断ることが、その人に対する拒絶だと捉えてはいけません。



トレードオフに目を向ける


ここでYESといったら、自分は何を失うだろうか?
そのトレードオフに目を向けられれば、中途半端なYESは言えなくなる。


何でもかんでもYESと答えて引き受けてしまっては、自分が本当にやりたいことが妨害されてしまったり、相手を深く傷つけてしまうことに繋がります。


そう考えられると、中途半端にYESとは言えなくなるのではないでしょうか?



好印象よりも敬意を手に入れる


目先の好印象と引き換えに、長期的な敬意を手に入れられる。
また、上手く依頼を断ることは、「自分の時間を安売りしない」というメッセージになる


何でもかんでも引き受けてしまうことの弊害として、自分を雑用だと認識させてしまうことが挙げられます。


「こいつに頼めばいいや」と思われてしまうのは何とも勿体ないことでしょう。


自分と相手との間に知らずのうちに上下関係を築いてしまいます


エッセンシャル思考

・きっぱりと上手にNOと言う

・本当に重要なことしか引き受けない



キャンセル   —過去の損失を切り捨てる


サンクコスト(埋没費用)に対する心理的バイアス



サンクコストとは、すでにお金を払ってしまったという理由だけで、損な取引に手を出し続ける心理的傾向のこと。
「ここでやめたら今までの投資が無駄になる」と思うあまり、望みのない投資を重ね、さらに抜け出せなくなる。


そんな経験をしたことがあるでしょう。


これは、もっと身近な例として、

  1. チケットを買ってしまったという理由だけで、ひどくつまらない映画を最後まで観る

  2. いったんバスを待ち始めたら、タクシーを捕まえるのが悔しくて、いつまでもバスを待ち続ける

  3. 一度ゲームに手を出したら、何か景品が手に入るまでお金を入れ続ける

などが挙げられます。


この心理効果は、うまく使えば商売などにも活用できますが、自分が陥ってしまうと怖いものです。


授かり効果


所有しているという理由だけで、失うのがもったいなくて捨てられない。
まだ持ってないとしたら、わざわざ買わないはずなのに。


そうやって捨てられずにたまっていくガラクタ………。
こんな思いをしたことがある方もいると思います。



では、どうしたら、この不本意な心理から脱出することが出来るでしょうか?


  1. 持ってないふりをする


「どれくらいの価値があるか?」ではなく「まだ持っていないとしたら、手に入れるのにいくら払うか?」と考える。


仕事や活動でも、「このチャンスを逃したら、どう感じるか?」ではなく「もしまだこのチャンスが手に入ってないとしたら、どれだけコストをかけて手に入れるか?


と、発想の転換が出来たら、要らないものといるものの仕分けが容易にできると思います。


 2.逆プロトタイプ



プロトタイプは、何かを始める前に大まかなモデルを試してみることを言いますが、何かをやめる時も、本格的に撤廃する前に簡単な形で試してみる、という逆プロトタイプもあります。


例えば、顧客や友人、家族のために苦労してやっていたことを「これは本当に必要なことだろうか?」と疑いをかけることで一度辞めてみる。


しばらく様子を見て、特に誰も困ってない。


そうやって、顧客や友人、家族のために苦労してやっていたことが、実は相手にとって何の意味もなかったことが分かる、ということがあるかもしれません。



エッセンシャル思考

・「もしまだ1円も払ってなかったとしたら、今からこれに投資するだろうか?」

・「今これをやめたら、何に在韓とお金を使えるだろう?」

・すすんで損切りをする


感想


「本当に必要なことだけに時間とエネルギーを使うこと」を学んだはずなのに、この感想文を書きあげるのに約2時間かけてしまいました。


なんとも皮肉なことだろうか…


「ここまで書いたら最後まできれいに仕上げたい」という、まさに上記でご紹介した「サンクコストに対する心理的バイアス」に陥ってしまいました。



とにもかくにも、自分の行動をこうやって見直すキッカケになる本であることは間違いないし、1000円払って勝った甲斐があったなぁと思いました。