『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』
- 世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)
- 光文社
- 2017-07-19
- 本
「美意識」と聞くとどんなものをイメージするだろうか?
机の周りが綺麗、肌や化粧に抜かりない、細かな部分に気を遣っている、などなど…
こんなイメージがあるのではないだろうか?
本書で云う「美意識」は経営における「真・善・美」を判断するための認識のモード。
分かりやすく言えば、意思決定においてそれが真理に基づいた善良的で美しいかの判断能力。
ではなぜ現代において美意識が重要視されているのか?
本書はそれを紐解いていく。
目次
第一章 論理的・理性的な情報処理スキルのの限界
第二章 巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
第三章 システムの変化が速すぎる世界
第四章 脳科学と美意識
第五章 受験エリートと美意識
第六章 美のモノサシ
第七章 どう「美意識」を鍛えるか?
面白かった部分のまとめ
1. 論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある
現代は複雑なシステムが互いに影響しあい、目的と手段の関係が単純な構造として把握しにくい時代、そしていわゆる「VUCA」の時代である。それゆえ、論理・理性に頼りすぎない、感性や直感に基づく意思決定が必要だからだ。
2.世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつある
さらに、人々の消費行動も「モノ消費」から「コト消費」へとシフトしてきている状況を踏まえると、人の承認欲求や自己実現欲求を刺激するような商品・サービスの重要性が市場を占めていくことになる。
江戸時代の武芸家、松浦静山は
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
という言葉を残している。
これは、勝利には論理で説明できない勝利、超論理的な勝ちがある一方、負けには常にそれにつながる要因があるということ。
これは経営においても言えること。
歴史的にみると、優れた意思決定の多くは論理的に説明できないものが多い。
ソニーのウォークマンが典型的な例だろう。
当時根強い反対があったにもかかわらず「これは売れる!」と判断したのは、直感的に売れるに違いないと判断できたから。これをいつまでも論理的に「売れる要因がない」などと一歩踏み出せないでいたらウォークマンは誕生しなかった。
このように、論理や理性で考えてもシロクロつかないような問題・意思決定においては、むしろ「直感」を頼りにしたほうがいい。
ただ気を付けたいのは、「直感」はいいが「非論理的」ではダメだということ。
「論理」と「感性」のバランスを大事にしたい。
3.システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している
ルール、それは社会的には法律として我々の生活において真、善として機能している。
しかしそれはある社会システムが安定的で急速に変化しないことを前提としたもの。
だから現代の予測不可能で加速度的に発展する時代においては法整備が間に合わないという状況を生む。
そんな時代に生きるからこそ、明文法に頼りすぎず普遍的な真・善・美の観点からの判断が必要になってくる。
エキスパートは美意識に頼る
AIが我々の生活に浸透しつつある現在、論理的な部分、つまりデータに基づく意思決定はAIに任せ、人間は「美しいかどうか」判断する美意識を鍛えるべきなのだ。
フワッと浮かんだアイデアが優れたものであるかどうかは、最終的に、それが美しいかどうかという判断、つまり「美意識」が重要になってくる。
羽生善治棋士はこんなことを述べている。
”美しい手を指す、美しさを求めることが結果として正しい手を指すことにつながると思う。正しい手を指すためにどうするかではなく、美しい手を指すことを目指せば、正しい手になるだろうと考えています。”
イノベーションにはストーリーが必要
昨今、「イノベーションが競争のカギだ」ということを誰もが口にするようになったが、これは裏を返せば、すでにイノベーションは競争のカギではないということ。
矛盾しているように見えるが、競争戦略は他社との差別化の追求。だからこそイノベーションのその先に何を追求するかが大切になってくる。ブランド独自のイメージや世界観の確立、つまりブランディングをいかに果たすかが問題となってくるのだ。
例えば、アップルの強みは画期的なアイテムを世に送り出しているからイノベーションだろうか?
筆者はそうではないと言う。ではなんなのか?
彼はアップルが持つ本質的な強みは、ブランドに付随するストーリーや世界観にあるという。
アップルの商品の外観や機能と似た製品が溢れても競争量を失っていないのは、外観やテクノロジーはマネできるが、世界観とストーリーは決してコピーできないから。
実定法主義と自然法主義
明文化されたルール、つまり実定法に基づく社会が当然であったつい最近までは実定法に頼ればよかった。しかし、システムが激変するこの時代、そのシステムの正当性や秩序が担保されていることを前提にした実定法による支配は、システムが急に変わると法の整備が追い付かないという問題が発生している。これは実定法の普遍性の問題である。
そんな時代だからこそ、システムの変化に関わらず普遍的なのは、道徳や倫理などの「真・善・美」、アートの部分。アートによる意思決定は結果的に効率的であると先程羽生善治氏の言葉とともに記したが、コンプライアンス的な側面から見ても、アートに基づく意思決定は安全かつ社会からの理解、後押しが得られるということから結果的に効率がいい。
美意識をどう鍛えるか?
方法として端的に述べると
1.哲学
2.絵画
3.文学
4.詩
これらに積極的に触れること。
哲学でいえば、そのコンテンツではなくコンテンツに至るまでのプロセス、考え方、姿勢を学ぶ。
絵画は、絵から得られる情報から、どんな場面なのか様々なパターンを想像する。
文学は、例えば古典を読む。
詩は、その文体やレトリックを学ぶ。詩にはメタファーが多用されており、だから人々の心を動かす表現になる。リーダーが部下を含む会社全体をまとめる時に心に訴えかける言葉として機能する。
感想
意思決定における美意識の重要性を経営、コミュニケーション、市場、法律、などの観点から様々な具体例を用いて簡潔に説明されている。
特に、様々なジャンルの著名人・偉人の名言は筆者の素養が窺えるし知的好奇心をくすぐられた。
哲学や美術、詩、文学に触れる機会を積極的に増やそうと心に留めた。
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